ヤッター先生コラム vol.4「 不登校が解消した事例」

【公開日】2025年8月

ヤッター先生の経歴:矢田 雅久氏。都内公立で43年間教職を執り、その間、2校で14年間校長を勤める。また、東京都で教育研究員・教員研究生・開発委員、品川区で校長会会長・就学相談委員長等を歴任。現在、品川区教育委員会で教育アドバイザーとして勤務。※こちらのコラムでは学校の先生からいただくお悩みに対して、ヤッター校長先生にご回答いただいていますが、ご紹介する回答内容が全ての場面や児童に対して有効であるということではありません。お悩みに対する対応方法は児童やクラスの実態により大きく変わるため、ここでは、取り入れていただきやすい具体的な対応策を挙げていただきましたので、ご参考にしていただけますと幸いです。

不登校が解消した事例

前回は不登校となる理由について4つに分類してお話をしました。今回は、不登校が解消した事例を2つお話しします。

【中学校3年生A君の場合】学校へ行かないという選択から高校へ楽しく通学するまで

私が小学校5、6年生の時に受け持った卒業生のA君の事例です。
彼はとってもまじめで勉強もでき、代表委員を務めたり、友達がい じめられていると「やめようよ」と言えるような正義感の強い子でした。そんな彼が中学校3年生のときにからかわれていた友達を庇 ったことで、彼は嫌がらせを受けるようになりました。ご両親も心配して学校に相談するも嫌がらせは止まず、勉強も手につかなくなりました(今でいうイジメです)。
中3の一学期で高校受験を心配したご両親は、私に相談に見えました。A君と私・ご両親で相談した 結果、いじめに立ち向かって心がボロボロになって高校に行けなくなるより、A君の心が壊れないようにすることを第一に考え、中3 の6月から卒業まで学校を休ませることにしました(A君には登校したい気持ちはありましたが、登校できる心理状態ではありませんで した)。ただし、A君とは次の4つの約束をかわし、ご両親にも協力していただくことにしました。

<4つの約束>
1. 勉強は学校と同様の 時間を決めてきちんとやること(一人では学ぶことが難しいと彼が言った数学については、ご両親と話し合って大学生の家庭教師をつ けました)。
2. 一日一回は外に出て体を鍛えること(友達には会いたくなかったようで、夜近くの公園に行き腕立てやランニングを毎 日したそうです)。
3. 規則正しく生活し、決して夜型にならないこと。
4. 社会とのつながりは絶たず、仲の良い友達には不登校の理由や趣旨を話し理解してもらったうえで、関係は継続させてもらうこと。

学校に行かないので、内申点が大きく作用する都立高校は諦め、面接と当日の試験の結果で合否が決まる私立の高校に的を絞りました。また、志望校も彼の希望により、自宅から遠く、同級生があまり行かない学校を志望校としました。その結果、見事合格し、4月からは楽しく高校に通うことができました。
また、不登校で辛かった時に、心のどこかで「腕力も強くなりたい。強ければこんなことにはならなかったのに。」と思い続けていたようで、高校からは空手を始め、全国大会にも出場するような選手になりました。
今、彼は小学校の教師になり、自分が味わったような辛い目に子供た ちを合わせないようにと、全力で取り組んでいます。この事例は、理由がある程度はっきりしており、進学を転機にするという目的意 識を強くもって不登校に立ち向かった例としてよく覚えています。

≪この事例からの大切な学び≫

1. いじめのような時には無理に立ち向かわずに、一時的に逃げることも必要だということ。
2. 家族全員が一つの目的のために協力し合うこと(本人が頑張っていれば温かく見守り、楽しい家庭生活を過ごさせてあげること。進学を学力や有名校にこだわらず、自分の子供に合った学校を本人の意思を尊重しながら選択させたことも留意したい)。
3. 学校に行かず家庭にいても、生活のリズムを崩させないこと。
4. 何よりも、本人が登校したいという強い意志をもって取り組むこと。

【小学校1年生B君の場合】その子の好きを活かして登校できるようになるまで

私が校長になってからの事例です。
1年生のB君が2学期に入り、突然登校しぶりをするようになりました。理由は本人もよくわからず、体調不良での遅刻が2~3日続き、遅れて教室に入るのがとても恥ずかしかったことが始まりだったようです。最初は何となくの登校しぶりでしたが、だんだんと昼夜が逆転し、ますます朝起きられずに欠席や遅刻が多くなりました。
担任はとても熱心で、毎日電話で励ましたり、朝お迎えに行ったりもしましたが、欠席が多くなり遅刻して登校しても教室に入ることができず、保健室登校となりました。
ご両親も心配し、何度も担任や管理職と心を開きながら話し合い、解決策を探りました。校内委員会も開催して、管理職や担任はもとより、学年主任、生活指導主任、保健主任、学校カウンセラー、特別支援の専門員、特別支援のコーディネータ ー等、関係者全員で不登校解消のための方策を検討しました。
その結果、B君はストーリー性のあるゲームが好きで、こつこつとポイントをためて商品を獲得するなど、達成感を得ることが好きだとわかりました。そこで、保護者の協力を得てミッションカード (一つできたらシールを貼る、100枚たまったら保護者からプレゼントをもらえる)を実施することにしました。

内容は、
1. 家の人と一緒でもよいので登校時間内に登校する。
2. 教室に入れない時には、保健室や職員室・校長室で過ごす。
3. 授業に参加する(参加できた時間の数だけシールを獲得)。
4. 中休み・昼休みは友達と遊ぶ。
5. 朝の会・帰りの会に参加する。

ミッションを無事クリアし、シールが100枚たまったのでプレゼントを獲得することができました。

次のミッションカードは、
1. 登校時間内に一人で登校する。
2. 授業に参加する(参加できたら2時間で1枚シールを獲得)。
3. 給食を教室で食べる。
4. 朝の会・帰りの会に参加する。
5.一人で下校する。

と、少しバージョンアップしてみました。
B君はこのミッションカードに熱心に取り組み、最初のカードを3か月、 二枚目のカードを2か月で終了し、ご褒美のプレゼントを獲得することができました。
その結果、このミッションカードに取り組み 始めてから5か月後には不登校は完全に解消され、元のように楽しく学校に登校できるようになりました。
このミッションカードを 実施するにあたり、不登校を解消させるためにプレゼントで釣るのは教育的にいかがなものかとも考えましたが、結果的に登校でき るようになったのですから、これも一つの取り組み方であると思います。

≪この事例からの大切な学び≫

1. 教師同士の十分な意思の疎通があること(校内委員会での共通理解と組織的な取り組み)。
2. 保護者と学校が十分な意思の疎通と協力関係を作ること。
3. 児童の様子や興味関心がある事をしっかりと把握すること。