ヤッター先生コラム vol.3「 不登校の児童への対応方法を教えてください!」

【公開日】2025年6月

ヤッター先生の経歴:矢田 雅久氏。都内公立で43年間教職を執り、その間、2校で14年間校長を勤める。また、東京都で教育研究員・教員研究生・開発委員、品川区で校長会会長・就学相談委員長等を歴任。現在、品川区教育委員会で教育アドバイザーとして勤務。※こちらのコラムでは学校の先生からいただくお悩みに対して、ヤッター校長先生にご回答いただいていますが、ご紹介する回答内容が全ての場面や児童に対して有効であるということではありません。お悩みに対する対応方法は児童やクラスの実態により大きく変わるため、ここでは、取り入れていただきやすい具体的な対応策を挙げていただきましたので、ご参考にしていただけますと幸いです。

不登校の児童への対応方法を教えてください!

不登校となる理由:不登校の原因は本当にさまざまであり、いくつもの要因が複雑に絡み合っていたり、本人が思っている原因 と違うことが原因であったりすることも少なくありません 。そんな中でも私の経験から、大きく分けると4つに分類することが できると考えています。

A. 学校でのことが原因となるもの:

「友達関係でのトラブルやいじめ等に関係するもの」「集団生活や社会への不適応」 「学力不振等、勉強に関する事柄」「教師との不適応」等。【私の経験では全体の2割程度】

B. 家庭での家族関係や出来事、成育歴が原因となるもの:

「母子分離ができない」「家族間での不仲」「過干渉、過保護、放任」 等。【3割程度】

C. 本人の性格や気質が原因のもの:

「コミュニケーションがとりにくい」「集団不適合」「特別支援」「病気」等。【1割程度】

D. ABCが複雑に関係しあっているもの:

「Cの気質があるところにAが入る」「Cの気質があるところにBが入る」等。 【3割程度】 ∕〇その他【1割程度】

≪対応策≫

本人に聞いてもよくわからないこともありますが、まずは、原因をしっかりと探ることが第一と考えます。そのためには、 担任は常日頃から不登校気味の児童を注意深く見守るとともに、保護者や他の教師とも連携して様々な観点から児童の実態を把握しておくことが大切です。「不登校の原因探しをすることは弱っている児童、生徒を追いつめ、より深刻化、⻑期化させることもあるの で、原因についてはあまり追求せず、温かく寄り添って見守っていくほうが良い。」という考え方もありますが、私は、まずはできるだけ早期に、丁寧にその原因を探り、学校が組織として一枚岩となって、保護者とともに具体的な対応策を考えて実施していくこと が、何よりも大切であると考えています。

「A. 学校でのことが原因となるもの」の対応策

①対象児童や周囲の他の児童、保護者からも聞き取りをして事実関係を整理し、原因をはっきりとさせる。 

②管理職や担当主幹、担任、学年等が入った校内委員会を開催し今後の対 策を協議するとともに、保護者にも丁寧に説明して協力をお願いし、該当児童の理解も経て学校としての対応を決定し実施する。(対応策は、児童の不登校である現状を打開できる具体的な策や児童が安心して任せたり対応したりできる策)。

③校内全体で対応策を共有させて具体的に実施する。 

④保護者とも連携しながら担任、学年、学校全体でその後の児童や人間関係、学級等の様子を丁寧に見守る。 

⑤1〜4の事を確実に実施しながら、児童が安定して登校できるようにな るまで、児童や保護者の了解が得られる方法「担任による電話や家庭訪問での定期的な安否確認」「手紙や便り、学習課題等のお知らせ」等をていねいに実施し続ける。

私の経験では、はっきりとAが原因であった場合は、B以下の原因の時よりも「原因がはっきりしているので、具体的な対応策を実施できる事」「全校で共通理解し、情報を共有しながら学校で見守り、対応策を徹底させることができる事」などの事から、不登校を解決できた事例が多くありました。

DのCAの場合でも、本人の気質を考えたうえで学校での対応策を講じればよいので、学校でできることはいくらでも考えることはできます。

ただ、残念なことに、多くの原因はB、Cであると思われるのに保護者がそれには目を向けず、担任や学校に原因があると責任追及をされたり、担任やクラスが替わるまで、児童の登校を拒否されたりする様な事も時々ありました。
また、B、Cではないにしても、明らかにAだけの原因ではなく、Dであり、ABCが絡み合っているという事例も多くありました。

そのような時には、とても時間がかかりますが、様々な方向から原因を究明するとともに、時間をかけて丁寧に保護者や本人に一つずつ説明しながら、主となる原因がAやAだけでない事に気づいていただき、対応策を共に考えさせていただくしかありません。

B.C.Dも対応順の2〜5はどれも同じです。まずは、1の原因を究明し、そのうえで具体的な対応策を立てて丁寧に実践していくことが必要です。そのためにも校内の全教師の共通理解と保護者との連携は絶対に必要不可欠です。

「B. 家庭での家族関係や出来事、成育歴が原因となるもの」の対応策

家庭でのことが主ですのでなかなか担任や学校では原因を見つけることができません。また、予想することができても、プライバシーにかかわることも大きく、対応策もうまく保護者と協議することが難しいという問題 があります。

Bの可能性があると少しでも考えられる場合は、まずは、児 童に家庭での状況の丁寧な聞き取り(兄弟がいる場合はさりげなく兄弟にも)をするとともに、入学前や前学年までの情報を丁寧に集めていくことが 必要です。

必要ならば、子ども家庭支援センターや児童相談所等の関係諸機関との連携も必要かもしれません。そして、それらから得られた情報を基に、保護者にも細心の心配りをしながらも情報を共有し、連携して対応策を考えて実施していく事が必要と考えています。

「C. 本人の性格や気質が原因のもの」の対応策

該当児童への丁寧な児童理解は勿論、保護者との密な連携や場合によ っては医療の手助けを必要とすることも考えられます。

「D. ABCが複雑に関係しあっているもの」の対応策

AからCまでのことをよく理解したうえで、対応していくことが大切 です。

☆上記に挙げたどのケースでも不登校児童のいる場合は、該当児童と同様に 保護者が心身ともに疲れ果てている場合も多くあります。是非、保護者のケアも忘れずにしていただきたいと思います。 

☆不登校児童への対応で是非理解しておいていただきたいことは、「学校が全てではない。」ということです。学習や社会生活での学びは学校以外の場所や機会(教育支援センター、フリースクール<公立、⺠間>、校内の不登校対応教室、専門学校、職場、その他の社会等)はいくらでもあります。不登校で学校には行けなかったが、また、学齢どおりでの学校生活はすることができなかったが、実社会で立派に暮らしている人々がたくさんいらっしゃることも事実です。不登校であっても「社会へ興味・関心を持ち、かかわりだけは大切にしていく」ことが必要であると私は思っています。