小児科医 多賀 千之 先生

【公開日】2025年10月

医師を含めた医療従事者は、たくさんの人からたくさんの 「ありがとう」を直接、言ってもらえる仕事です。

ープロフィール

小児科医 多賀千之 先生

1956年、福井県生まれ。 1981年に三重大学医学部を卒業し、 医師として金沢大学小児科に所属。

2014年に石川県美川町で 多賀クリニックを開業。 「わかりやすい説明と質問できる雰 囲気」をモットーに診療中。

ーこれまでのキャリアを教えてください

いくつかの市中病院に勤務し、たくさんの子ども達とお母さん・お父さん・ご家族にお会いして来ました。
1991年からの3年半と1999年からの1年半、アメリカへ研究留学があり、日本とアメリカの文化、自然、子育てや医療の違いを経験しました。
2010年から自分の学んだことや経験を活かして、子育てやうつ病についての講演をしています。
徐々に回数が増えて年間50〜100回になりました。講演会の総 数は900回を超え、参加者の総数は35,000人を超えました。

ー一番思い出に残っているお仕事は?

子ども達が病気から回復して、笑顔になっていく場面を何度も経験しましたが、毎回とても嬉しいです。医師になって良かったなあと、毎日のように感じています。
また、外来で診ていた子どもが「結婚して子供ができました」と外来受診したり、その子どもが「孫が産まれました」と外来受診すると、本当に幸せな気持ちになります。医師の中で、2世代・3世代にもわたって接点を持つことができるのが小児科の特徴です。
その中で、子ども自身とお母さんと私の3人の絵と「元気にしてくれてありがとう」とメッセージを画用紙に書いて、外来で手渡しくれた時は感激しました。
また、何人かの子ども達から、「多賀先生みたいなお医者さんになりたい」と言われた時も、本当に嬉しかったですね。
一方で、私自身が担当した子どもが病気のために亡くなった時、自分の担当では なくても仲良くしていた子どもが亡くなった時は、とても悲しく、今も強く記憶に残っています。

ー小さい頃はどんな子どもでしたか?身につけて良かった習慣は?

私が生まれたのは福井県今立郡池田町という「福井県のチベット」と称されるような山奥の田舎でした。
そのため、保育施設がまだなく、池田第1小学校の水海分校への入学が初の集団生活でした。いつも近くの同級生と畑や田んぼの間を走り回り、おやつには畑 になっているトマト・きゅうり・ナスをかじっていました。
小学校5年生〜6年生は4キロ遠方の池田第1小学校へ自転車で通学しました。
冬場は2メートル近く雪が積もるので、カッパにランドセル、⻑靴を履いて、片道1時間半ほどかけて歩いていました。
当時は 私にとってそれが当たり前でした。また、畑仕事・田んぼ仕事・山仕事の手伝いもよくしました。

ー思い出に残る担任の先生とのエピソード

高校3年生の時のI先生はクラスの生徒を下の名前で呼ぶことが多く、とても親近感のある先生でした。
個人的にもよく立ち話をし、話を聞いてもらえた記憶が残っています。
先生の方針としては、高校3年生の前半は遊ぶことを制限せず仲間意識を高め、後半になると徐々に引き締めていくという印象でした。その流れに乗せられたように、クラス全員が受験に集中している雰囲気だったと思います。
卒業後、同窓会で先生と話すのもとても楽しい時間でした。
5年間のアメリカ研究留学中に上司だったT先生(医師であり科学者)が、私の考えやアイデアをとてもよく聞いてくれました。
「私自身を活かしてくれた」、イコール、「自信を付けてくれた」という印象があり、それにより仕事への意気込みが強くなった記憶があります。

ー子供時代に培って良かったと思える能力・習慣はありますか?

田舎育ちだったので幼少期に畑仕事・田んぼ仕事・山仕事の手伝いをして来たことが、とても大切な潜在能力だと今は感じています。
なぜなら、その汗をかいて働いたという実感があることが、外来を受診される方々とお話する上での共感力につながっていると感じるからです。
父が教職員であり母も教育熱心だったため、日曜日や春休み・夏休み・冬休みであっても、午前中は勉強のために机に向かうことを習慣づけられました。
その勉強を継続する意識が、医師になるための膨大な勉強量をこなす礎になっていたと感じます。
医療は日々進歩しますから、今になっても勉強の継続は不可欠です。

ーこの職業を目指す子供たちに伝えたいこと。

どのような職業でも、仕事というのは「ありがとう」と言われるものです。
もちろん、直接言われる場合もありますが、商品を買うとお金が「ありがとう」の代わりに返ってくるという場合もあります。
医師を含めた医療従事者は、たくさんの人からたくさんの 「ありがとう」を直接、言ってもらえる仕事です。
病気をみる・命を預かるという点での緊張感・重圧感はありますが、達成感や満足感が高い職業です。
医療関係の仕事には医師以外もたくさんの職種があります。ぜひ、仕事の種類を調べてみてください。
一緒に働けることを楽しみにしています。

ー子どもの頃に担当してくれた学校の先生へ。今、伝えたいこと

2010年から子育てやうつ病の講演会を始め、年間50〜100回を数えるようになりました。
そして、書籍『あったか子育て・孫育てアド バイス:たがのわ』(4巻セット)を制作しました。
医師としての仕事だけでなく、自分なりのフィールドとライフワークとして継続 しています。
日本の未来を創るのは、子ども達です。
その子ども達が心豊かな子ども時代を過ごせるようにと提案をしています。
そのような活動をする中で、医師として、そして講演する立場として、相手の話を聞くことの大切さを強く感じています。
高校時代のI 先生と研究留学時代のT先生にしっかり話を聞いてもらえたことが、今の自分の礎になっていると感じ、とても感謝しています。